***ドキュメントX***
これは、ある高齢パソコンが、ウイルスに遭遇し壮烈な戦いの末、一生を終わったドキュメント物語である。
平成16年の夏は、猛暑に見舞われ高齢パソコンには、体力の衰えから、過獄な毎日であった。
その残り少ない生命を掛け、欠け落ちた力を振り絞り、一花咲かすべき努力する姿は、灼熱の太陽に向う、一筋の光にも見えた。
そして、その高齢パソコンは心の安らぎを装い、斬新なアイデアを求めて古い雑誌を拡げていた。
ふと、眼に止まったのが、Visual Basicの本であった。
そう言えば、この本に付随したCDが、何処かにあったはずだ。と。。。
そして、見つけ出したCDを、なにげなくインストールした。
しかし、このプログラムは難解であり、簡単に操作することが出来なかった。
勿論、前にも興味を持って、覗いたことが有ってもウインドウズとは、掛け離れていて、眼は、すぐ背いていたのだった。
気分転換の末、元に戻って、ウインドウズのソフトを手掛けていた時、少し動きに変化が見られた。
それは、サブプログラムへのリンクの遅れであった。
どうして、こんなに、リンクが遅いのか?
疑問は、輻輳していった。
原因は何か。疑問は深まるばかりであった。
では、ソースに眼を通してみよう。
間違いは無い。
ただ、見様に長そうな感じがした。
下へ下へと降ろしてみたら。
なんと、書きもしないソースが載っている。
なんだこれは。書いたはずの無いソースが、長々と書き出されている。
そのソースは、VBSのようだ。
つまり、ビジュアル・ベーシック・スクリプトで書き出されていたのだ。
このプログラムは、知識不足のため理解不能。
でも、Visual Basicをインストールし、ゴチャゴチャ弄ったので、そのせいだろうと。
それなら、このVisual Basicを落としてしまえば元に戻るはずだ。
そうすれば、Visual Basicには、全く関係なくなるはずだ。
そして、書いたことのない、ソースを消せばいい。
.
しかし、そんな生易しいことではなかった。
その不要なソースを消して、HTMLをブラウザで開いてみると、今度は簡単に開いた。
何かの間違いで、余分なものが付いたのかもしれない。
そして、暫くして、そのソースを見ると、先程消したはずのソースが、またまた、書き出されている。
なんだ。これは。
消しても消せないなんて。
「消すに消せない、浮世の花は、生きて居りゃこそ、実を結ぶ」
そんなもんかなあ。
でも、もし、過去が消せないとしたら。
それは、生きて行く人生に、大きな負担となる。
人生の勝ち組み、負け組みは、その人それぞれの運命に左右されるものだ。
たとえ、勝ち組みであっても、消したほうが良いものもあり、負け組みであっても消さないほうが良い過去もあるもんだ。
だから、過去は、自分自身が判断して、消すべき過去、残すべき過去を決めるのである。
あー。それなのに、それなのに。
我が高齢パソコンは、その過去が消せない。
歳のせいだろうか。
もう少し、若かったら、身体の自由も利いたかもしれない。
思えば、ウインドウズが世に出て、もう何年経つのだろう。
出た時から、身体を休めず、身を粉にして働きずくめであった。
今の世代とは、わけが違う。
2世代、3世代も前からなのだ。
昔なら、100メートルは、15秒。
しかし、今、走ったら、20秒は、楽にオーバーする。
時代の波は、常に斬新なものになって蘇える。
それは、我らパソコンにとっての栄枯盛衰でもある。
今更、愚痴っても始まらない。
現実に戻って、今を見つめなければならない。
では、ほかのHTMLプログラムは、どうなんだろう。
他のところも、動きが遅い。
やはり、不要なソースが付いているのか?
当たりぃ。
やはり、同じになっている。
どいつも、こいつも、不要なものを取り除こう。
ところがである。
一旦、取り除いたソースは、無くなるのだ。
そして、不要なソースが取れると、動きが軽くなる。
そして、他のHTMLプログラムを開くと、なんとまあ。
不要なソースを取り除き、軽くなったはずのHTMLプログラムに、その不要なソースが乗り移っているのである。
つまり、一旦は、不要なソースが消えるのであるが、他のプログラムの起動により、こっちに移る。
これこそ、「イタチの追いかけっこ」である。
あちらが消えれば、こちらに書かれる、こちらが消えれば、あちらに書かれる。
まったく、「おや、まあ。いらっしゃい。」である。
これって、もしかして、「ウイルス?」
もしかしなくても、ウイルスである。
HTMLソースを、駆け巡るウイルス。
疲れもしないで、よく動くもんだ。
始めて、ウイルスとの、ご対面。
では、我がパソコンの身体は、すべて、このウイルスに侵されているのか。
あまりの暑さから、自然発生したウイルスなんだろうか。
それとも、衰弱した体力が、ウイルスを呼び寄せたのだろうか。
原因は、分からないが、このウイルスは、なんて名前なんだろう。
さぞかし、名のある高貴な、お方なんだろう。
この年寄りのパソコンに、よくおいでになりました。
これも、何かの、ご縁。今後とも宜しくお願いします。
とは言ってみても、名前ぐらい分からないと、遊ぶに遊べない。
手掛かりは、VBSで書かれてある文面。
でも、VBSのプログラムが読めなければ、宇宙からのメッセージみたいなもんだ。
「あんたは、お利口さんです。」「あんたは、お馬鹿さんです。」
どっちなんだろう。
どっちにしても、読めないんだから、ここは自分勝手に解釈して良いほうに取るべきである。
では、その読めないメッセージを勝手に解釈して、まず、「どんな名前なのか調べてごらん。」
と、書いてあったことにしよう。
取り合えず調べなければ。
分かることは、「ビジュアル・ベーシック・スプリクト」。
最初の2−3行に、そんなことが書かれてある。
スクリプトの書き方である。
その後が、チンプンカンプンの本文。
本文は無視。夏の空に虫が舞う。
夏の虫の標本は、子供達の夏休みの宿題。
虫にも、種類が沢山あります。
特に、素晴らしい標本を上げると、蝶々、トンボ、蝉。。。
一般的には、ただ、「あ、蝶々だ。」「トンボだ。」[蝉だ。」
で、片付けられてしまうが、その種類は、思いのほかに多い。
その種類を、追い求めたら一生かかるかもしれない。
子供ばかりでなく、大人でも、それを、追い求める人は意外に多いもんだ。
それは、華麗な舞いに魅せられて、それを我が手に納める。
これが、[夜の蝶」に関心を持ったなら、それは大変なことになる。
夏の夜は短い。これを補うのが時間の延長を夜更かしに繋げる。
「夏の夜は 夜更かし族で 終りなく」
つまり、「地球の上に朝が来る。」。
そして時間の経過にかかわらず、その次の日に繋げるのである。
何時しか、眩い太陽の下で、趣味と現実の狭間に経ち、人々は喘ぐ。
そこにいくと、我が高齢パソコンは自分で言うのもなんだが、暑くても寒くても、わずかに流れる電流をエネルギーにして、よく動くもんだ。
しかも、歳を取ると電力も少なくて済む。
体力の低下が消費電力を押さえる。
力強く感じる瞬発力こそ、電力を必要とするものである。
熱い電流が、我が身を走る。
外気の熱と、我が身の熱が火花を散らし、そこに稲妻が走る。
今年は、日照りの効果で稲の実りもよく、豊年満作となった。
しかし、雷様は、ご機嫌麗しく頻繁にお召しになったようだ。
大小の違いは有れど、同じ電気を喰うもの同士。
だが、その姿は、天と地ほどの違いがある。
雷様の鮮烈な光で、ふと、我が身が心配になった。
我が身には、ウイルスが存在している。
良性ウイルスなら良いが、もし、悪性のウイルスだったら取り返しが付かないことになる。
まずは、課題のウイルスさんの、お名前調べ。
生まれながらに、その方々の知り合いもなく、親戚も居ない。
それなら、ネットにお世話になろう。
かくして、ネットでの検索が始まった。
その手掛かりは、「VBS」の三字のみである。
いわゆるVBSウイルスで、しかも、HTMLを感染ルートにするウイルス。
メール感染などで、他人に迷惑をかけるウイルスもあるが、このウイルスは自分自身のパソコンの中でHTMLを感染ルートにし増殖するウイルス。
言わば、他人に迷惑をかけるウイルスを悪性ウイルスと言うなら、他人に迷惑をかけないウイルスで、良性ウイルスとでも言うのだろうか。
ネット検索で拾い出したのが。
VBS.Pet_Tick.N
---------------------------------------------------
このウイルスは、HTMLファイルに増殖するVisual
Basic Script (VBS) ウイルス
影響を受けるシステム:Windows 95, Windows
98, Windows NT, Windows 2000, Windows XP,
Windows Me
と出た。
そして、危険性の評価は、「被害状況:低」「ダメージ:低」「感染力:低」とある。
なーぁんだ。程度の低いウイルスなんだ。
さぞかし、高貴なお方だと思っていたら、こりゃ,平民じゃあないか。
平民なら、五分と五分。
気を使わなくて済む。
遊んでやろうじゃあないか。
と。大見得切ったまでは良かったが、よく読むと、こんなことが書いてあった。
発病症状:
ファイルの改竄:%Windir%、%System%、Temporary、My
Documents、デスクトップフォルダ内に保存されている.HTM
および.HMTLファイルを探し出して自分自身を付加する。
こりゃ、あっちこっちに、飛び火するってことかいな。
HTMLソースは、簡単、邪魔者は消せばいい。
しかし、最初に消そうとして、邪魔者が消せなかった。
それなら、新規に作ればいい。
なんたって、HTMLだけ。ほかのファイルには移らない。
警戒範囲は、HTMLファイルのみ。
だか、更に、よく読むと。
このウイルスは%Windir%\mylover.exeというファイルを作成し、その後、レジストリをWindowsの起動時にそのファイルが実行されるように改ざんします。
と、あった。
と、言うことは、わけの分からない「レジストリ」を改斬してしまうことになる。
分かるかなあ。「レジストリ」なんて。
でも、来られちゃったものは仕方が無い。
お手合わせしてみるだけ。
そして、ウイルスの名前で、検索してみると、その兆しは全く見られず亜種であることが濃厚になった。
検索内容からして、EXEファイルが既に作成されていて、そのウイルスが増殖されていることになる。
ウイルスは、当然のことながら、隠しファイル。
それは、どこに有るのか?
何処かに、それらしきものが有っていいはず。
今日、新しく作られたファイルは何か?
それを検索してみる。
作ったこともないファイルが出てきた。
それは、「desktop.ini」と「folder.htt」と言う2種類のファイル。
「ini」ってのは、設定ファイルであり重要なもの。しかし、「htt」ファイルって何だ?
これって、必要なものなのか。あるいは、ウイルスなのか。
分からないけど、作った覚えも無いんだから、取り合えずゴミ箱に。
これで良し。
さあ、安心。そして確認のため電源を落として再度立ち上げ、改めて今日作ったファイルを引き出してみる。
と。どうだろう。「desktop.ini」と「folder.htt」と言う名前のファイルが、パソコンを立ち上げした時間に合わせて作成されているではないか。
それも、3個ずつも。
それでは、今作られたファイルを、そのままにして電源を落とし、再度立ち上げ今日出来たファイルを引き出してみると、更に増えて、。「desktop.ini」が7個、「folder.htt」が5個になっていた。
立ち上げるたびに、5個も増えるとすると。。。
それは、すぐ20個以上に増えてしまった。
これは、大変。すぐゴミ箱が満員になってしまう。
もし、隠しファイルの表示をしていなかったまら、ゴミ箱の満員が分からなくなる。
もし、ゴミ箱が満員になっていて、ゴミ箱をクリアしようとしたら、ゴミ箱処理不能となりエラーを起して機能停止となる。
これって当たり前のこと。
そうすると、隠しファイルの表示をしてあったとしても、何時もゴミ箱を監視、クリアをする手間が付き纏うことになる。
この2個のファイルは、ペアになっているんだ。
ペアルックのウイルス。
日常社会では、ペアルックは人目に付く。
もし、ふたごの子供が居たら、おそろいの洋服でペアルック。
恋人同士だったら、同じデザインの色違いペアルックとなる。
ポーカーだったら、ワンペア。最低でも、手になっているから、ブタには勝てる。
いずれにしても、ペアルックは、微笑ましい。
では、ウイルスのペアルックは?
誰も歓迎しないだろう。
しかし、好むと好まざるにかかわらず、来てしまったんだから歓迎せざるを得ない。
歓迎の意味を込めて、容量を調べてみよう。
ペアであっても、容量の違いがある。
「desktop.ini」が、1キロバイト。 「folder.htt」が、23キロバイト。
23キロバイトもあると。
1回で5個。3回で15個。増えるんだから、それらが、すべて23キロってことになる。
もし、これが0バイトだったら、1000個あっても、容量は、0バイト。
これがいい。容量の多いほうから、始末しよう。
まず、ゴミ箱をクリアして、立ち上げることで生まれる最初の「folder.htt」を、すましてメモ帳で開いてクリアしてしまおう。
そうすれば、書き込み無しの0バイとになる。そして、それを上書きしてしまえは、0バイとのウイルスが出来上がることになる。
と。どうだろう。
0バイトのウイルスが完成した。
目標どおり、「folder.htt」は、すべてが、0バイト。
1000個あっても、1000掛ける0は、0バイト。
しかし、その数は、1回の立ち上げで、7個も増えている。
その増え方は、まったく変わらない。
こんな、白紙のウイルスが、白紙のウイルスを生み出しているなんて。
これは、明らかに幽霊ファイルである。
夏場は幽霊さんの活躍する季節だ。
我がパソコンは、ウイルス幽霊に占領されてしまった。
パソコンってのは、見様なもんだ。
ウイルスが幽霊になって活躍されては、中枢機能のCPUも形無し。
あー。やはり、ネット検索により書かれてあった、EXEファイルが作られていて、それが命令しているのかなあ。
だとしたら、やはり、狙いは、EXEファイルだ。
でも、ネット検索のウイルスEXEファイルは、何処にも無いし。
別名だったら,分かりっこない。
当然のことだが、EXEファイルは、その内容を判断することは不可能。
何故って、それは、コンパイルされた、機械語のようなもの。
名前がわかっても、意味不明のプログラム。
こんなのが、ウインドウズシステムに山のように存在する。
一旦、EXEファイルを検索して、どんなものがあるか調べてみよう。
あった。あった。山のように出てくる。
しかし、これはウインドウズシステムや、プログラムの中に無くてはならないもの。
必要なものを消してしまったら、プログラムが動かないどころか、システムも影響してしまう。
でも、物は試し。
適当に、如何わしい名前を、どれかをゴミ箱に入れて、再度立ち上げ、ウイルスが消えなければ、必要なEXEファイルということになるので、それを、順々に試してみよう。
山ほどあるEXEを,一個一個調べていたんでは,日が暮れてしまう。
ここは、奮起一点大量に削除してしまえ。
変化が無かったら、それには該当なしだから、また元に戻せばいい。
これって、分割削除とでも言うのだろうか。
そうこうしているうちに、「folder.htt」が完全に消えてしまった。
その間に、間違って必要なEXEファイルもゴミ箱から完全に消してしまったのもあったらしい。
ペア幽霊の相棒が消えた。
残る相棒も、何としても消したい。
相棒の「desktop.ini」が消えればいいんだけれど。
この相棒は、白紙になっても、頑張っていて、なかなか消えない。
こんな時は、原点に帰るに限る。
「folder.htt」は、白紙にする前に、メモ帳でVBSのプログラムをテキストファイルとして保存してあった。
これを、「folder.htt」としてhttファイルとして復活させ、もう一度、我が身体に放してみよう。
その動きを打診して、始めからやり直してみよう。
そうしたら、この相棒は、VBS付きだから、すぐ水を得た魚のごとく、活き活きとして活躍しだした。
これで、振り出しに戻って、1回立ち上げるたびに、5個も子供を産むようになった。
慌てて、この相棒を白紙に切り替えた。
かくして、このペアウイルスは、白紙幽霊のまま、増殖を続けたのである。
見方を変えて、被害状況を調べてみよう。
デスクトップの中にあるフォルダ内のHTMLファイルは、ほとんどが.VBSの活躍で、白紙でない「folder.htt」のプログラムが乗せてある。
つまり、VBSのオマケ付きのHTMLになっている。
オマケがあっても、開くことは開くのだが。
この、VBSのプログラムが長いもんだから、開くのに結構時間がかかる。
デスクトップ以外にも、HTMLファイルがあるはず。
ほかは、どうなんだろう。
それは、ウインドウズにも、プログラムファイルにもあるわけ。
プログラムは、ビルダーもインストールしているし。
そこで、ウインドウズの中、プログラムの中のHTMLを調べてみると。
そのほとんどが、ウイルス付きのHTMLファイルとして完成されていた。
何時の間に、こんなことになったんだろう。
そこで、すべてのHTMLファイルを引き出してみた。
やはり、デスクトップ以外にも沢山あるものだ。
そして、そのすべてが、ある一定の日に変更されている。
その日は、どうも可笑しい。HTMLファイルの開くのが遅いと感じた日と重なっていた。
それがウイルスに進入された日なんだ。
何時何分と言う定まった時間で、全てが変更されていた。
まったく、見事なものである。
ウインドウズのシステムにまで侵入。
ただ、ネット検索の内容どおりに、HTMLファイル感染だけ。
ほかのファイルは、影響がない。
しかし、あんまりです。ウインドウズ本体の中には、沢山のHTMLファイルが存在しています。
その、すべてに、オマケが付いてしまった。
これが、10個くらいならなんとかなるんですけど。
かといって、消しても消しても、手透きのファイルに乗り移る。
これでは、高齢パソコンは一生をかけて、消す作業に追われて、新しいファイルを作る余裕が無くなってしまいます。
たとえ、若干の余裕を見つけて、新しいファイルを作ったとしても、それもオマケ付きになってしまう。
なんか物を買って、オマケが貰えれは、それは有り難いことですけど。
このオマケばかりは、ただで貰っても有りがた迷惑。
かくして、我が高齢パソコンは、白旗を揚げたのでございます。
白あげて、赤さげて。。。赤トンボは、秋の空に消えて行きました。